はじめに
労働災害の中でも、フォークリフトを使用したことによる事故は多く、フォークリフト事故の件数は2018年の労働災害統計によると2113件で、そのうち26件が死亡事故です。
フォークリフト事故件数は毎年2000件前後、死亡事故件数は30件前後で推移しています。
フォークリフト事故の傾向と原因
フォークリフト運転時には、多くの死角が潜んでいます。
フォークリフトのお尻部分であるバランスウェイトでは、荷役できる最大荷重に見合ったおもりを積んでいます。
したがって、大きいフォークリフトほどバランスウェイトも大きくなり、さらに死角が増えることになります。
また、前方の荷物はもちろん、何も持っていない時でもマストが思いのほか視界を遮るため、死角の原因となります。
フォークリフトの事故事例
(厚生労働省HPから引用)
実際に起こった事故事例をもとに、どのような原因と過失の追求が考えられるか見ていきましょう。
事故概要
事故現場は型枠資材置き場
この災害は、コンクリート打設用の型枠資材置場の敷地内において被災者ら3名の作業者が数日前から始めた工事現場の型枠解体を終えた。
ベニヤなどの残材の一部をトラッククレーンの荷台に積み込み、会社の資材置場に持ち帰った。
トラッククレーンを入り口近くに止めた被害者は、ヘッドガード付きフォークリフト(最大積載荷重2t 前進走行最高速度19km/h)を使用して、荷卸しを行った。
転倒事故が発生
フォークの爪の部分を使用して荷を卸し、フォークリフトを走行させて少し離れた置き場まで運ぶ作業を4~5回行って作業を終えた後、駐車場に向かった。
かなり早い速度で走行していたが、駐車場の手前でブレーキをかけながら右にハンドルを切ったとき、フォークリフトが転倒した。
被災者は、頭部をフォークリフトのヘッドガードを支える鉄枠とコンクリート路面との間に挟まれた。
なお、被災者はフォークリフトの運転については無資格であった。
考えられる要因と過失
1. 無資格者の運転
フォークリフトの運転を無資格者が行った。
最大積載1t以上のフォークリフトをフォ-クリフト運転技能講習修了者でない者が運転した。
2. キーの保管管理
フォークリフトのキーが保管管理されなかった。
キーは差しっぱなしで、無資格者でも自由に運転できる状況にあった。
3. 点検整備
特定自主検査等点検整備が行われなかった。
全輪ともに磨耗限界を大幅に超えたタイヤが装着され、旋回時にスリップしハンドルをとられ転倒した。
4. 安全管理
安全作業基準が作成されておらず、作業者の安全教育も不十分であった。
過失と賠償
事業者は、
- フォークリフトをフォ-クリフト運転技能講習修了者に運転させる義務がある。
- フォークリフトを適正に管理する義務がある。
- フォークリフトを点検整備して安全に作業できるようにする義務がある
- マニュアルなどを作成し、安全にフォークリフトの作業をさせる義務がある。
本件では、事業者はこれらの義務を怠ったのであり、被害者に対する安全配慮義務違反が認められうる。
したがって、上記各義務違反の事実は、事業者の過失による不法行為を構成するものと認められうる。
類似事案である東京地裁令和2年8月25日判決では、下記の通りの賠償が認められた。
- 通院交通費 1万8952円
- 休業損害 279万8400円
- 通院慰謝料 170万円
- 後遺障害による逸失利益 334万6561円
- 後遺障害慰謝料 290万円
- 弁護士費用 98万円
判決額 1081万1113円