労災で安全配慮義務違反となるケースは?一人作業の場合や証拠についても解説

目次

労災における安全配慮義務違反

安全配慮義務違反とは

労働災害の損害賠償請求において、事業主(会社)側の義務違反ないし落ち度を主張する際の論拠として最も多く用いられるものの一つが、安全配慮義務違反です。

安全配慮義務違反

事業主は労働者に対し、就業場所や使用する機器や器具の管理など、労働者の生命や身体を保護するように配慮し労働者の安全を確保しなければならない義務を負っています。

この事業主の負う義務を安全配慮義務と言います。

会社に安全配慮義務違反が認められた事例について、見ていきたいと思います。

実際の状況はもちろんのこと、過去の判例や、労働安全衛生規則を基準に判断されることが多いです。

労働安全規則

労災_工事現場

労働安全衛生規則とは、厚生労働省が発行する、労働の現場における安全と健康を確保し、快適な作業環境を作り出すための取り決め(省令)です。

工場や建設・解体現場、運輸など様々な労働の現場における「安全のためのルール」が規則として細かく定められています。

例えば、「プレス等による危険の防止」に関してだけでもこれだけの細かな規則があります。

「プレス等による危険の防止」

第百三十一条 事業者は、プレス機械及びシヤー(以下「プレス等」という。)については、安全囲いを設ける等当該プレス等を用いて作業を行う労働者の身体の一部が危険限界に入らないような措置を講じなければならない。ただし、スライド又は刃物による危険を防止するための機構を有するプレス等については、この限りでない。

2 事業者は、作業の性質上、前項の規定によることが困難なときは、当該プレス等を用いて作業を行う労働者の安全を確保するため、次に定めるところに適合する安全装置(手払い式安全装置を除く。)を取り付ける等必要な措置を講じなければならない。
一 プレス等の種類、圧力能力、毎分ストローク数及びストローク長さ並びに作業の方法に応じた性能を有するものであること。
二 両手操作式の安全装置及び感応式の安全装置にあつては、プレス等の停止性能に応じた性能を有するものであること。
三 プレスブレーキ用レーザー式安全装置にあつては、プレスブレーキのスライドの速度を毎秒十ミリメートル以下とすることができ、かつ、当該速度でスライドを作動させるときはスライドを作動させるための操作部を操作している間のみスライドを作動させる性能を有するものであること。


3 前二項の措置は、行程の切替えスイツチ、操作の切替えスイツチ若しくは操作ステーシヨンの切替えスイツチ又は安全装置の切替えスイツチを備えるプレス等については、当該切替えスイツチが切り替えられたいかなる状態においても講じられているものでなければならない。

安全配慮義務違反の「証拠」

したがって、多くの労災損害賠償ではこういった”「労働安全規則」に則っていなかった状況”であることを証明できるかどうかがポイントとなります。

例えば、

  • 現場の写真や防犯カメラ等の記録
  • 同僚の証言
  • 事故後に対策がなされた事実

などが証拠として有効である場合が多いです。

安全配慮義務違反を立証した事例

労働災害が発生した場合、労働者は企業の安全配慮義務違反を証拠により立証する必要があります。

各業種別の労災事故において、どんな安全配慮義務違反が、どんな証拠によって認められ、どんな賠償につながったかを解説して参ります。

転倒事故で骨折を負った事例

調理担当従業員がビルの屋外に設置された階段を使用していたところ、雨に濡れた階段で足を滑らせ転倒し、右ひじ骨折、鼻骨骨折などの傷害を負った事例。

1審では安全配慮義務違反が認められなかったが、控訴審において、安全配慮義務違反が認められた。

高裁の判断の要約

  • 降雨の影響によって滑りやすくなった階段を裏面が摩耗したサンダルを履いて降りる場合には、本件階段は調理担当従業員が安全に使用することができる性状を客観的に欠いた状態にあったものというべきである。
  • それにもかかわらず、被控訴人は、調理担当従業員に降雨の影響を受ける本件階段を、その職場の一部として昇降させるとともに、裏面が摩耗した本件サンダルを使わせていた
  • 現場責任者も他の調理担当従業員が本件階段で転倒した事実を把握していたから、調理担当従業員が本件階段で足を滑らせて転倒する危険が生ずる可能性があることを予見することができた

控訴人の強調した証拠

  • 労基署作成の「STOP!転倒災害プロジェクト 転倒災害について」「STOP!転倒災害プロジェクト「静岡労働局ぬかづけ運動」実施中!」等の証拠により、労働者がぬれた床面で滑って転倒することは最も基本的な労働災害である旨を主張
  • 現場で使用されていたサンダルにより、何ら耐滑性がないこと、相当程度の摩耗があったこと、摩耗の点検を行っていなかったことなどを主張立証
  • 控訴人を含めて4名物従業員が短期間のうちに、同一箇所で同じ態様で転倒している事実を主張立証

→本件は、一般的に使用者に課される安全対策を立証し、摩耗したサンダルなどの証拠、同一の態様で転倒事故が起こっていることを証拠と共に主張することによって会社の安全配慮義務違反が認められた事例です。

建設現場での転落事故のケース

平成30年9月28日広島地方裁判所呉支部判決

事故当日の状況及び事故の発生状況等

  • 現場集合後、朝礼は行われず、前日までの作業の流れで解体作業を開始した
  • 原告は、本件足場の解体作業中に、本件足場第4層から転落した。
  • 本件事故発生時、原告は本件足場第4層、Dは第2層に配置されており、第6層では解体作業中であったが、足場部材の受渡し中ではなかったため、原告が転落する瞬間を現認していた者はいなかった。
  • Cは、自らが不在の間、ベテランで足場の組立て等作業主任者の資格を有する者が、地上で現場を見ながら作業をしてくれると考えていたが、そのような指示は行っていなかった。
  • 原告は、安全帯を着用していたものの、使用はしていなかった。

Dは、調査官に対し、Dも安全帯を着用するようには言われたが、使用するよう指示は受けていなかったため、安全帯は使用していなかったと説明した。

原告は、転落後、足を本件足場側に向け、頭をその反対側に向けた状態で倒れていた。

本件事故後に撮影された本件足場の写真では、手すりが崩れた状況は何ら認められない。

→このような事故状況で、安全配慮義務違反は認められるか?

具体的な安全配慮義務違反の有無

① 安全帯の使用等の指導及び監視について

本件足場の地上高は、最上層で11.4m、第4層でも7.64mに及んでおり、転落等の事故が発生した場合に作業員の生命・身体に重篤な結果が生じることは容易に予測し得る。

また、本件足場には安全帯等を取り付けることのできる手すりも設置されていたのであるから、被告Y1は、原告を本件解体工事に従事させるに当たり、安全配慮義務の具体的内容として、旧安衛規則上の各措置を講ずべき義務を負っていたものといえる。

原告は、本件事故当日、本件現場において、作業内容やその手順に加え、安全帯の使用についても指導を受けたものと認めるのが相当であるから、被告Y1が、原告に対し、解体の作業内容等を周知し、安全帯を使用させる等の墜落防止措置を講じる義務を怠ったものとは認められない。

→原告はこのように判示し、安全帯の使用の指導をしていたこと認め安全帯使用についての安全配慮義務を否定しました。

しかし・・・

他方、原告が本件解体工事に従事するのは本件事故当日が初めてであり、原告とCは面識がなかったのであるから、Cは、原告がどのような方法で作業を行うか(原告の作業方法に安全上の問題がないか)を、全く把握していなかったものと解される。

それにもかかわらず、Cは、原告に対して直接安全管理上の指示・指導をすることもなく、本件解体工事の作業が始まる前に本件現場を離れたものであって、原告の作業状況や安全帯の使用状況を一切監視していなかったことが認められる。

さらに、Cが本件現場を離れた結果、本件事故当時、本件現場には、被告Y1の従業員で足場の組立て等作業主任者の資格を有する者は一人もいない状態となった。

このような事情に照らすと、Cは、足場の組立て等作業主任者に求められる安全帯等の使用状況の監視義務を、作業の開始当初から全く尽くしていなかったものといわざるを得ず、この点において、被告Y1には原告に対する安全配慮義務違反が認められる。

→このように、作業主任者が安全帯などの使用状況を監視していなかったことから、会社に安全配慮義務違反を認めました。

過失相殺の成否について
  • 原告は、本件事故当日、本件現場において安全帯の使用について指導を受けていたこと
  • 原告は、本件事故以前にもとび職として足場の設置・解体工事等の高所作業に従事した経験を有し、安全帯を使用するよう指導を受けていたのであって、高所作業の際に安全帯を使用することは常識であるとの認識を有していたこと
  • 本件足場には手すりが設置されており、原告が安全帯を使用することは極めて容易であったこと

が認められる。

それにもかかわらず、原告は、本件事故当時、安全帯を装着していながら本件足場第4層に上がった後もこれを使用しなかったものである。

仮に手すりに取り付けるなどして使用していれば、転落は防ぐことができたといえるから、本件事故の発生については、原告にも少なからぬ過失があったといわざるを得ない。

そして、本件事故に至る経緯、被告Y1及び被告Y2の過失の内容その他一切の事情を考慮すれば、その過失割合は4割と認めるのが相当である。

→このように、安全帯を使用するよう指導を受けていたことを認め原告に4割の過失を認めました。

運送・運輸現場でヘルニア等を負ったケース

トラック運転手の腰痛の発症、腰椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄の後遺障害の残存について、使用者に安全配慮義務違反があったとして損害賠償責任が認められた事例

裁判所の判断

安全配慮義務違反について

原告が被告において従事していたトラック運転と荷積み・荷卸しの労働は腰に負担がかかり、その程度が重ければ、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄等の腰部の障害を生じさせる可能性のあることは明らかである。

したがって、被告としては、雇用契約上の安全配慮義務として、原告の従事する労働を原因として腰部に障害を生じさせないようにする注意義務を負っていたといえる。

→会社はトラック運転と積み下ろしによって労働者の腰に傷害を生じさせないようにする安全配慮義務を負っている

例えば、下記が認められる。

  • 木曜日の須坂、中野、飯山等への配達では、問屋ごとに種粕(1袋20kgを約500袋)、トップビーン(豆)(1袋30kgで約330袋)、サラダ油や菜種油(1斗缶16.8kgから20kg、500缶から600缶)等の荷物を手作業で各倉庫にまで運ばねばならなかったこと
  • 南安曇郡での荷卸しでも1箱30kgの生地の箱を約300個、1箱ずつ15m歩いて倉庫まで運ばねばならなかったこと

通達やその解説では、トラックへの荷積みや荷卸しの際に適切な補助具を導入することが腰痛予防のための人間工学的対策とされているところ、本件証拠上、被告においてはこうした人間工学的な対策がとられたとは認められない。

通達やその解説では、補助具として、昇降作業台、足踏みジャッキ、サスペンション、搬送モノレールなどが例示されているところ、これらの中には導入に過分の手間や費用がかかるものもあ理、これらを導入しないことが直ちに安全配慮義務違反になるとはいえない。

しかしながら、少なくとも原告の主張する台車の導入は容易であったはずであり、この点に関し、被告の安全配慮義務違反を否定することはできない。

→重い荷物を手作業で倉庫まで運ばなければならないにもかかわらず、少なくとも台車の導入すらしていなかったことが安全配慮義務違反となる

平成11年1月7日から7月19日まで原告の運行回数は61回であること、そのうち、1回の運行を開始し終了するまでの時間(1運行あたりの拘束時間)は、40時間超のものが4回、35時間から40時間未満のものが7回、30時間から35時間未満のものが6回、25時間から30時間未満のものが17回、20時間から25時間未満のものが18回、16時間から20時間未満のものが6回、16時間未満のものが3回あった。

勤務と勤務の間の休息時間は、8時間未満のものが27回あり、そのうち3時間未満のものが2回、3時間以上5時間未満のものが8回、5時間以上7時間未満のものが8回あったことが認められる。

こうした労働実態は労働大臣告示を大きく逸脱するものであり、被告に安全配慮義務違反のあることは明らかである。

→長時間の労働実態は安全配慮義務違反に当たると判示した。

このように、裁判所は腰痛予防のための人間工学的な対策が取られていなかったこと、長時間の労働実態から、会社の安全配慮義務違反を認定し、約3971万円の損害賠償請求を認めた。

工場のプレス機に手を巻き込まれたケース

被害者が工場内の機械の清掃業務中、機械のローラーに左手を巻き込まれ負傷した事案

作業内容

会社において、本件機械に付着した糊を取り除くための清掃作業は、毎稼働日の操業後に行われており、その清掃作業の手順は概ね以下のとおりであった。

清掃手順

  • 本件機械の外側のカネやこれを止めているガムテープを外し、本件機械下部の糊受け等に残っている糊を除去する。
  • 熱湯注入レバーを使って湯を出し、ローラーを運転させ、上下のゴムローラー、金ローラーを棒たわしで洗い、ある程度糊を洗い流したら湯を止め、ある程度きれいになったら一旦機械を止める。
  • 上の糊押え、他の糊がついている部分を清掃する。
  • 再度上記②の清掃をし、機械を止めて汚れがないか確認する。
  • 最後に横のカネをはめて、ガムテープで止める。

前記の清掃作業は、4人1組で、手に持ったブラシでローラー等の清掃を行うほか、スイッチやハンドルの側の者が、本件手順②の際に、湯出しやローラーの運転及び停止、糊の付着の程度等に合わせてハンドルを操作してローラーの間隔を調節するなどの操作をして行われていた。

事故状況

被害者は、本件事故当日、操作役を担当し、本件手順②(1回目)は、Bらから特に指示を受けることなく完了したが、本件手順④で2回目に行った本件手順②の作業の際、熱湯注入レバーを上げて湯を出し、ローラーを回転させる操作を行った。

その後、身体のバランスを崩すなどし、咄嗟に左手を上部ローラー部分の上につき、左手がローラーに巻き込まれた(本件事故)。

原告は、Bから、操作役で清掃作業を行う際、熱湯注入レバー等を右手で操作し、巻込み等防止のために左手には必ず柄付きのブラシを把持しておくことを指導されていたが、本件事故直前には、左手にブラシを持つことを失念していた。

会社の安全配慮義務違反について

  • 前記認定事実によれば、本件機械は、ローラーが人の手の届く位置に露出して設置されているほか、ローラー付近に手で操作する操作部も設けられていた。
  • ローラーの回転中に近傍で作業する者の身体の一部が触れるなどして巻き込まれる危険性があるといえ、本件事故後の是正措置のとおり、上部ローラー上面に覆いを設置することが可能であった。
  • また、本件機械は、ローラー等に付着した糊を取り除くために、毎日の清掃が必要であった。
  • その清掃作業は、ローラーに手の届く位置に複数の作業者が立ち、ローラーの回転中に、その直上付近の熱湯注入レバーやハンドル等の複数の操作部をその時々の糊付着の状態等に合わせて臨機応変に順次操作したり、回転するローラー部分を手に持ったブラシを当てて清掃したりするものであった。

以上によれば、本件機械は、清掃作業に従事する者が操作を誤ったり、操作の際にバランスを崩したりして、身体や衣服の一部等がローラー部分に触れて巻き込まれるなど、労働者に危険を及ぼすおそれのあるものであったというべきである。

したがって、機械の運転中に作業を行わなければならない場合において危険な箇所に覆いを設ける等の措置を講じない限り、その清掃作業を行う際には、機械の運転を停止しなければならないものであったと認められる。

本件機械の形状や清掃作業の内容から、被告において、清掃作業の際に労働者の身体の一部がローラーに巻き込まれる事故の発生は予見可能であったと認められる。

これに反する会社の主張は採用することができず、過去に同様の事故が発生したことがなかったとしても、この判断を左右しない。

したがって、会社は、本件事故当時、本件機械の上部ローラー上面に覆いを設ける等の措置をとらないまま、本件機械のローラーの運転を止めない状態で清掃作業を行わせていたものであるから、上記注意義務及び安全配慮義務に違反したと認められる。

過失相殺の当否及び程度について

原告が左手をローラーに付いた理由は具体的には明らかではなく、被告又はその従業員の指示に直接起因するとは認め難く、個々の作業内容がローラーへの巻込み事故の危険性を高めるようなものであったとは認められない。

また、不用意に手などを近づけることの危険性は明らかであるところ、ローラーの正面に立って作業を行ったり、熱湯注入レバー等のローラー付近の操作部の操作を伴う作業をしたりする。

その際には、労働者側も十分な注意を払う必要があったといえ、本件機械の清掃業務(ブラシ役を含む)には相当期間にわたって従事しており、その危険性を十分認識していたものと認められる。

以上に加え、本件事故直前の原告の作業において、ブラシを持たない手をローラーに過度に近づけたりする必要性は乏しかったこと、原告は、熱湯注入レバーやスイッチ等を操作する際は右手で行い、左手には巻込み防止のために柄付きブラシを把持するようにも指導されていた。

これを失念していたことからすれば、本件事故が、原告自身の不注意により生じた側面は否定できず、その注意不足の程度も軽微とはいえず、本件事故の発生には原告にも過失が認められるというべきである。
このような理由から、裁判所は被害者の過失割合は3割とした。

考察

このように、使用者は労働者の生命及び身体を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)があり、機械の掃除などの作業を行うときは労働者に危険を及ぼす恐れがある時は機械の運転を停止しなければいけません。

裁判所は事故時に機械上部ローラーに覆いを設けていなかったし、機械の運転を止めずに清掃作業を行わせていたとして、会社に安全配慮義務違反を認めました。

フォークリフトが転倒し下敷になったケース

この災害は、コンクリート打設用の型枠資材置場の敷地内において、フォークリフトが転倒し、運転者が下敷きになったものである。

事故概要

事業場は、コンクリートの型枠工事を業とするものであり、宅地造成工事の型枠工事を請け負って作業を行った。

災害発生当日、小型トラッククレーンで午前9時頃現場に到達した被災者ら3名の作業者は数日前から始めた工事現場の型枠解体作業を開始した。

午後3時頃、解体作業は終了したので、ベニヤなどの残材の一部をトラッククレーンの荷台に積み込み、会社の資材置場に持ち帰った。

トラッククレーンを入り口近くに止めた被害者は、ヘッドガード付きフォークリフト(最大積載荷重2t 前進走行最高速度19km/h)を使用して、荷卸しを行った。

フォークの爪の部分を使用して荷を卸し、フォークリフトを走行させて少し離れた置き場まで運ぶ作業を4~5回行って作業を終えた後、駐車場に向かった。

かなり早い速度で走行していたが、駐車場の手前でブレーキをかけながら右にハンドルを切ったとき、フォークリフトが転倒した。

被災者は、頭部をフォークリフトのヘッドガードを支える鉄枠とコンクリート路面との間に挟まれた。
なお、被災者はフォークリフトの運転については無資格であった。

考えられる要因と過失

  • フォークリフトの運転を無資格者が行ったこと
  • 最大積載荷重1t 以上のフォークリフトをフォ-クリフト運転技能講習修了者でない者が運転した。
  • フォークリフトのキーの保管管理がなされなかったこと
  • キーが差しっぱなしになっており、フォークリフトの運転が無資格者でも自由にできる状況にあった。
  • 特定自主検査等点検整備が行われていないフォークリフトが使用されていたこと
  • 全輪ともに磨耗限界を大幅に超えたタイヤが装着されていたため、コーナー部の旋回時にスリップしハンドルをとられ転倒した。
  • 安全管理が行われていなかったこと
  • 安全作業基準が作成されておらず、作業者の安全教育も不十分であった。

考えられる賠償

事業者は、フォークリフトをフォ-クリフト運転技能講習修了者に運転させる義務がある。
事業者は、フォークリフトを適正に管理する義務がある。

また、フォークリフトを点検整備して安全に作業できるようにする義務がある
事業者はマニュアルなどを作成し、安全にフォークリフトの作業をさせる義務がある。

本件では、事業者はこれらの義務を怠ったのであり、被害者に対する安全配慮義務違反が認められうる。
したがって、上記各義務違反の事実は、事業者の過失による不法行為を構成するものと認められうる。

後遺症等級12級が認められた場合

類似事案である東京地裁令和2年8月25日判決では、下記の通りの賠償が認められた。

通院交通費1万8952円
休業損害279万8400円
通院慰謝料170万円
後遺障害による逸失利益334万6561円
後遺障害慰謝料290万円
弁護士費用98万円
判決額1081万1113円

安全配慮義務の判断については
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以上のように3つ+1つの事例を見てきましたが、裁判所は個別具体的に検討して、会社の安全配慮義務を認めたり、労働者に過失を認め過失相殺をしたりしています。

労災事故に遭った場合には、会社に安全配慮義務が問えるかどうか個別に判断する必要がありますので、まずは当事務所にご相談ください。

労災に精通した弁護士が執筆しています!

黒田 修輔のアバター 黒田 修輔 代表弁護士

私を育ててくれた故郷である西宮に貢献したい。それが私の気持ちです。

これまで多くの人身傷害事案で培った「ケガ」に関する医学的な知識をはじめ、損害賠償、示談交渉のノウハウを武器に、身体的・経済的な苦痛を減らし、賠償額の適正化をめざして日々の業務にあたっております。

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