平成27年4月27日 東京地裁判決
被告工場内のプレス機械で作業中の工場長であった原告が左手をプレス機に差し込んで左指切断の負傷をした労災事故について、被告がプレス機に安全カバー及び自動停止装置を取り付けなかった安全配慮義務違反を認め、過失割合を4割として、1651万7514円の損害賠償を認めた事例
安全配慮義務について
「事業者は、機械等による危険を防止するために必要な措置を講じなければならず(労働安全衛生法20条1号)、プレス機については、スライド又は刃物による危険を防止するための機構を有するものを除き、当該プレス機を用いて作業を行う労働者の身体の一部が危険限界に入らないような措置を講じなければならない(労働安全衛生規則131条1項)
労働安全衛生法20条1号、労働安全衛生規則131条1項
被告は本件事故当時、本件プレス機に安全カバー及び自動停止装置を取り付けていなかったから、不法行為法上の注意義務及び安全配慮義務に違反したと認められる。したがって、被告には本件事故につき不法行為法上の注意義務違反及び安全配慮義務違反が認められる。」
同判決はこのように判示し、被告会社に安全配慮義務違反を認めました。
当該判例から、プレス機に安全カバーや自動停止装置が取り付けられていなかった場合、使用者の安全配慮義務違反が認められる可能性が高いと考えられます。
平成22年5月25日 東京地裁判決
被告のプレス工場で勤務していた原告は両手の親指と人差し指いずれも切断するという労働災害事故に遭遇したところ、被告の安全配慮義務違反を認め、過失割合を35:65として、565万0457円の損害賠償請求を認めた事例
要旨
①両手操作式 本件プレス機全面㈱に設置された両手操作押し釦の左右のボタンを同時に押すことでスライドが下がる方式。
両手でボタンを押すので事故防止機能が高いが速度や能率は劣る。
②足踏み式 足元に設置されたフットペダルを片足で踏むことでスライドが下がる方式。
作業者の手が危険限界内に会ってもスライドが下がりうるのでこれを避けるために光線式安全装置が併用されることがある。但し被告は事故当時この装置を作動させていなかった
安全配慮義務違反について、本件判例は下記のように判示しました
足踏み式での操作を禁止するという注意は徹底されていなかったと推測される。また、被告はプレス機がしょっちゅう止まってしまうことを嫌って光線式安全装置を作動させていなかったが、これを作動させていたら本件事故を回避できたことは明らかである。しかも、切り替えスイッチがロックされておらず、ロック用の鍵が差し込まれたままの状態であったことから、原告は両手操作式を足踏み式に容易に切り替えることができたのであるが、被告はこれを放置していた。つまり、被告は足踏み式の危険性を認識していながら、社員の安全よりも作業の効率性を優先して、確実な安全装置を作動させず、危険な状態を放置していた。
このように本件裁判例は、
①足踏み式での操作を禁止するという注意を徹底していなかったこと
②両手操作式から足踏み操作式への切り替えスイッチがロックされておらず、鍵が差し込まれたままの状態であったこと
から、被告会社が危険な状態を放置していたと認定し、プレス機のように危険な危険を扱う工場において、被告の安全管理が万全のものであったとはいいがたいとして、被告会社の安全配慮義務違反を認めました。
但し、原告の過失も相当程度認定され、被告35%原告65%の過失割合となりました。
プレス機は危険な機械であることから、会社側に高度の安全対策が求められていると言えると考えられます